2025年 5月の法語・法話

仏さまというのは 向こうから私のところへいつも来ているはたらきです

“Buddha” is the dynamic working that comes to me constantly.

近田 昭夫

法話

親鸞聖人は、当時の僧侶の常識を破り、結婚して家庭を持たれました。
妻の恵信尼さまのお手紙や、曾孫の覚如上人の伝記によれば、29歳の時に比叡山を下り、六角堂に100日間参籠された中、95日目の明け方、夢の中に観音菩薩が現れて、こうお告げをされたのです。
「もしあなたが女性と結婚するのであれば、私がその相手となりましょう。そして一生あなたと添い遂げたあと、いのち終わる時にはかならずお浄土に生まれる身といたしましょう」
つまり、親鸞聖人にとって結婚相手の恵信尼さまは、観音菩薩の化身であったわけです。結婚するということは、パートナーと共にお念仏申す人生を歩むということなのです。そしていのち終わる時には、お浄土に往生する身と成らせていただくのです。
妻の恵信尼さまもお手紙の中で、夫としての親鸞聖人を「観音菩薩の化身」であったとお書きくださっています。
観音菩薩とは、阿弥陀さまの脇侍(左脇に侍する菩薩、脇士とも)であり、大慈悲のはたらきを備えておられます。お経には、苦しむいのちを救うために、老若男女さまざまなお姿になって娑婆世界に現れてくださるのだと説かれてあります。
人生のパートナーが、お互いを観音菩薩の化身であるということは、私を仏道に導いてくださるお方が、すでに私の目の前におられるということです。お互いを敬い、共に手を合わせ、お念仏申していけるとは、なんて素敵な人生なのでしょう!

親鸞聖人と恵信尼さまは、お互いのいのちの中にご自身をお育てくださる仏さまのはたらきを見ていかれ、菩薩さまの化身と仰がれたのです。
ただ、どんなに仲の良いパートナーであっても、時にはケンカや仲違いをするかもしれません。どんなに傍に寄り添っている者同士でも、さまざまな理由で離れ離れで暮らさないといけないこともあるかもしれません。
そんなパートナーの存在を「私を仏道に導いてくださる方」と手を合わせていけるのが、お念仏の人生なのです。
そして親鸞聖人は90歳で、恵信尼さまより先にご往生なさいました。「今度は、仏さまの世界から私を導き、寄り添ってくださるはたらきと成られたのだ」と、恵信尼さまは手を合わせお念仏されたのではないでしょうか。

私から離れた、どこか遠いところに仏さまがおられるのではありません。仏さまは、縁あるお方のお姿となって、私を仏道へ導き、お育てくださいます。ありがたいお育てもあれば、厳しいご催促もあるでしょう。そのはたらきは、お念仏申す中で常に私のそばに寄り添い、すでに私のところへ来てくださっているのです。

朝戸 臣統(あさと たかつな)

本願寺派布教使、仏教婦人会総連盟講師、布教使課程主任講師、岐阜県高山市神通寺住職

  • 本願寺出版社(本願寺派)発行『心に響くことば』より転載
  • ※ホームページ用に体裁を変更しております。
  • ※本文の著作権は作者本人に属しております。

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