共同宣言
真宗教団連合40周年共同宣言
私たち真宗教団連合は、宗祖親鸞聖人七百五十回忌を目睫に控え、2010年に結成40周年を迎えます。念仏によって人間として生まれたことの意義を明らかにし、混迷する社会を生き切る力をいただき、それを受け継いできた私たちは、他を犠牲とする武力によって平和を求めている現実を厳しく問い直して、念仏のみ教えによる平和が実現されることを願って、ここに共同宣言いたします。
- 私たちは、他を犠牲としない平和とはなにかを、念仏のみ教えをもって全人類に向かって問い続けていきます。
- 私たちは、念仏のみ教えが世界に広まるように努めていく決意を新たにしました。
繁栄と孤独 --競争社会がもたらしたもの--
戦争に終始した20世紀の終わりを迎え、21世紀こそは、武力によらない平和が実現される時代とならなければならないと願っていた矢先、9・11同時多発テロによって21世紀の幕が開かれてしまいました。このことによって、競争社会によってもたらされた経済的繁栄は、世界的視野から見れば、多くの国の人びとの犠牲の上に成り立っている事柄であり、自爆テロをも辞さない人たちを生み出している不幸な現実の上にありえていることに衝撃をもって気づかされたのです。
しかも私たちは、この競争社会の中で、快適な生活を求めることは当然の権利であると主張してきました。その結果、他者を不幸にするだけでなく、自らの存在そのものを危険に追い込んでいるのが現代です。人間は理性的であれば平和が実現されるという、理性に対する絶対的信頼に基づいている近代合理主義が、人間自らの手によって崩壊しつつあるのが現代です。人間とは何かという最も基本的な問いを等閑にした近代合理主義に立って、私たちは、自分の都合の良いものだけを追い求めた結果、他者を排除し、孤立して行かざるをえませんでした。しかも、「自立する個」という個(自我)の確立こそが理性的人間に求められ、孤立に耐えて生きるよう強いられました。人間の知性が至りついた近代合理主義の中にこそ、仏教が問題としてきた人知の闇が深く息づいているのです。
死への不安
しかも、経済的繁栄のただ中にいたときは、ひたすらこの世の繁栄に目を奪われ死を無視していましたが、昨今では、この世の繁栄だけでは解決されない「死すべき身」としての死に目が届くようになってきています。例えば、死んでも自分の生命は無に帰することなく、過去・現在・未来に生き続けているという輪廻転生にも似た生命の循環が美しく物語られたり、また、死者は姿を変え、形を変えて自分を見守っていてくれると、死者との連帯を持つことによって、愛する人の死への悲しみを癒そうとする詩などが人びとに感動を与えている時代となっています。しかし、このような物語や詩による癒しは、単なる一時的なものでしかありません。そこには、相変わらず死の闇が漂い、根源的な「いのち」のあり方への目覚めによる確かな救いはありません。
「いのち」への問い
それでは、私たちの「いのち」とは何でしょうか。現実には、私たちは決して一人で生きていませんし、一人では生きられません。自分を個として立たしめている大地があるのです。その大地に立って自他ともに互いに生きあい、他者なくして自分はなく、自分なくして他者はない、そういう「いのち」の連帯性においてのみ私たちの「いのち」は生きているのです。そのことを仏教は「縁起の道理」として説き明かしています。この縁起の道理によって、只今の自分がどのようにして在り得ているのかということに目覚めるとき、他者を排除して孤立化した自分の孤独と、その自分の死への恐れを抱いて生きる現代人の人知の闇が照らしだされてくるのです。
念仏者として生きる
私たち現代人は、自分の思い通りに生きようとして孤立する孤独の闇と、思い通りに生きようとすることを根底から拒否する死の闇を抱えて生きています。しかし、自分を自分たらしめている「いのち」の連帯性の中での自己存在であることを縁起の道理によって自覚せしめられるとき、「私が生きている」のではなく、「生かされている私」に出遇うことができます。「生かされている」ということは、とりもなおさず、自分の思い通りに生きようとする思いこみが打ち破られることに他なりません。念仏とは、自分の思い通りに生きられないという限界を知る勇気を私たちに与えてくれるだけでなく、その限界を嘆くことすら超えて、その身の事実を引き受けて生きる覚悟をも与えてくれます。阿弥陀如来の本願とは、そのような勇気と覚悟をもった人間として生きることを願い続けている大悲のことです。その本願に出遇った人を念仏者として、親鸞聖人は「御同朋・御同行」と敬われました。私たちは御同朋・御同行として、念仏によって人知の闇を照らす仏の智慧に出遇い、そこにこそ世界平和が実現されることを確信して、ここに宣言いたします。
平成20(2008)年4月22日