2023年 12月の法語・法話

一人一人がお浄土を飾っていく一輪一輪の花になる

Each and every one of us, one by one, becomes a flower to adorn the Pure Land.

梯 實圓

法話

 何を見て美しいと感じるかは、人によってそれぞれ違うものですが、「花」は、多くの人が美しいと感じるものの一つでしょう。花の咲く植物は、地球上におよそ20万種もあるそうですから、その中のどんな花が好きなのかも、人によってそれぞれ違うでしょう。毎日通る道端のたんぽぽに癒されたり、大切な人からもらった花束のバラがやはり大切な花になったり。一方で、花の値段や希少性にとらわれることもあります。値段の高い花だから美しい、とても珍しい花だから好きだ、というのは少しさびしい気がします。

 ここ数年、朝顔を育てています。日当たりの良すぎる窓にグリーンカーテンを作りたかったのですが、まったく思ったようにはなりません。難しいものです。まだツルも出ないうちに、野生のシカに食べられてしまうこともあります。窓の下の地面がコンクリートなので、植木鉢で育てています。グリーンカーテンを作るほどには大きくならなくても、花が咲くと嬉しいものです。かわいい花を楽しんでおりました。

 昨年、コンクリートの隙間から、朝顔の芽が2本出てきました。こぼれた種からひとりでに出てきたわけです。そのままにしておいたところ、みるみる大きくなり、大きな葉っぱがたくさん出てきて、大きな花もたくさん咲いて、たった2本で立派なグリーンカーテンとなりました。植木鉢の朝顔もそれなりに成長して花も咲いたのですが、勢いの差は一目瞭然でした。やはりなかなか人間の思い通りにはならないものです。もしかしたら、コンクリートの隙間の先には、私たちの知らない世界が広がっているのかもしれない...。

 思い通りにならなくてあれこれ考える時がありますが、それはたいてい時間に余裕がある時です。日常が忙しい時には悩む暇もありません。多くの植物は寒い冬の間、ほとんど活動していないように見えます。しかし、寒さに耐えながら根や茎は養分をたくわえ、種は次に芽を出す場所を求めます。人間の目からは見えなくても、確実に春に向けて準備をしているのです。冬の時期の水やりが、次に咲く花に大きく影響する植物もあります。きっと人間にとっても、考える時間は準備であり、いろんなことを吸収するチャンスなのでしょう。自分の足元の地面のことですら、よく知らないのですから。

  「一人一人」「一輪一輪」という表現には、他人任せにしてはいけないという厳しさと、他人に頼ってもかまわないという優しさの両方を感じます。ぼんやりしている人には「さあ、目を開いて!」と呼びかけ、エネルギーが切れそうな人には休息を与えてくれると感じます。

 「一人一人」と呼びかけられるということは、私たち一人一人に対して、別々に呼びかけられているのだと思います。大勢の中の一人ではなく、ただの一人として。その一人がたくさん集まって、それぞれの生き方で、それぞれの花になります。私が私として、一人一人が生きることで、浄土の世界を飾り続けていくのではないでしょうか。

須貝 暁子(すがい きょうこ)

1978年生まれ。山陽教区第4 組善照寺住職

  • 東本願寺出版(大谷派)発行『今日のことば』より転載
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