2023年 3月の法語・法話

こころにじごくがあるよ ひにち まいにち ほのをがもゑる

I have hell within my heart, and all day every day, the flames burn fiercely there.

浅原才市

法話

私たちは、いつまでも若々しく、健康で幸せな人生を送りたいと思っています。健康に気をつけ、お金も蓄え、子どもにも勉強させ、安定した将来のためにと努力しています。しかし、人生には予期せぬ出来事、思い通りにはいかないことがたびたび起こります。

ここ数年、新型コロナウイルスの脅威の中で全世界が恐怖を味わっています。また、東日本大震災や熊本大地震、毎年のように続く豪雨災害。いつ起こるかわからない自然の脅威には全く無力な私たちです。

また、「平和」の願いに反して、民族間の対立、信ずる宗教の違いや思想の違いからの対立、人間同士の反目が、テロや戦争を引き起こします。ロシアのウクライナ侵攻は記憶に新しい事態です。まさに何が起こるかわからないのが世の中です。そんな中、私たちはどのような生き方をしているのかをしっかり問わねばなりません。

『歎異抄』に「さるべき業縁のもよほさば、いかなるふるまひもすべし」(『註釈版聖典』八四四頁)
(人はだれでも、しかるべき縁がはたらけば、どのような行いもするものである)とありますが、これが私たちの本来の姿です。

私にとって都合の良い縁に恵まれると、法律や道徳を守り、世間体を気にして善人らしく振る舞ってはいますが、いったん予期せぬ都合の悪い縁に出あったり、思い通りにはいかないことがあると、たちまち様子が変わり、恐ろしいことを体でも心でも起こしてしまう弱い存在が私たちです。

「売り言葉に買い言葉」という言葉があるように、相手の予想もしなかった言葉に激高し、些細なことから大げんかになり、そして暴力にまで繋がってしまうことは、お互いの人生の中で経験したことがあるのではないでしょうか。

最初からわが子を虐待しようと思う親はいないでしょう。要因の一つに「子育てが思い通りにいかない」ということがあり、虐待という事態を引き起こします。また、お金に困った状態になると、「こんなはずではなかった」とさまざまな犯罪を引き起こしてしまうのではないでしょうか。

罵声が飛び交い暴力が日常茶飯事となり、虐待や犯罪が頻繁に起こる状況を「じごく(地獄)」というならば、それを引き起こす原因は私の心の弱さにあると言わざるを得ません。

阿弥陀さまのご本願は、そういう弱い存在である私たちのために建てられました。

「どうか何が起こっても不思議ではないのが世の中だと知っておくれ。またその中で何をしでかすかわからないのが自分だと気づいておくれ」
と喚びかけていてくださいます。そのような阿弥陀さまの喚びかけ、すなわちご本願を、心に刻んで生きていきたいと、私は思います。

中川 清昭(なかがわ しんしょう)

本願寺布教使、仏教婦人会連盟総会講師、福岡教区御笠組願應寺前住職

  • 本願寺出版社(本願寺派)発行『心に響くことば』より転載
  • ※ホームページ用に体裁を変更しております。
  • ※本文の著作権は作者本人に属しております。

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